イギリスの不思議と謎/金谷展雄【著】

以前の記事でも触れたとおり、昨年出張でロンドンに行く機会があったので、イギリス関係の本を紹介します。

 

著者は、長年イギリスの文化と社会について研究されている金谷展雄津田塾大学名誉教授です。 

本書は、代表的なイギリス(の文化)の「不思議と謎」を紹介したもので、新書ということもあり、一つ一つのテーマについて平易な言葉で分かりやすく説明がなされています。

本書の目的について著者は、 

第一に、イギリスの不思議をイギリス人にならって自分自身が楽しむことにある。同時にそれが読者の皆様の楽しみにつながれば、これほどうれしいことはない。<p.6「まえがき」>

と述べています。

その言葉どおり、章立ても興味を引かれる構成になっています。

第1章 歴史に名を残す最初の紳士は強盗犯?
第2章 エディンバラがイギリスの地図にない!
第3章 茶の木がないのに紅茶の国?
第4章 パブリック・スクールはだれのため?
第5章 やがて恐ろしきナーサリー・ライム
第6章 カクテルに名を残す女王はだれ?
第7章 イギリス方言の多様性
第8章 フーリガンは「二つの国民」の生き証人か?

 

パッと見たところ、それぞれの章は独立しているように思われますが、すべての章を読んだ上で気づかされるのは、この独特のイギリス文化の背景には「階級制度」が絡んでいるということです。

現在でもイギリス議会の上院は「貴族院」ですし(上院改革の動きもあるようですがあまりうまく行ってないようです)、「労働党(The Labour Party)」が二大政党の一翼を担っています。

 

21世紀 イギリス文化を知る事典』(出口保夫・小林章夫・齊藤貴子【編】、東京書籍、2009.4)によると、イギリスの階級は一般に以下の4つに分けられるそうです。

(1)上流階級(Upper Class)
 王室を頂点とする貴族階級が中心で、ほとんどが先祖伝来の領地を所有している。

(2)上層中流階級(Upper Middle Class)
 イギリス独特の階級区分である。概して高学歴、ゆとりのある生活をしている階層で、医者、弁護士、高級官僚、会社経営者、大学教員などが中心である。近代イギリスの繁栄を担った階層といわれる。

(3)中産階級(Middle Class)
 生活レベルは文字どおり中程度で、ゆとりがあるとはいえないまでも、一応の暮らしが成り立っている。商店主、会社員、一般公務員などがこれに含まれる。

(4)労働者階級(Working Class)
 単純労働や肉体労働に従事し、生活は概して質素。

<p.178-9>

また、同書によるとそれぞれの階級が人口に占める割合は、上流階級…1%、上層中流階級…10~20%、中産階級…30~40%、労働者階級…残り、となるとのことです。

もちろん、本書『イギリスの不思議と謎』でも『21世紀~』でも指摘されているように、最近では階級制度を嫌う人が増え、階級間移動も進んでいるため、以前ほど階級意識は強くないようですが(この点については本書第7章に出てくる「河口域英語(Estuary English)」の話が象徴的です)、良くも悪くも階級制度は伝統的なイギリス文化を語る上で避けて通れないポイントであることは間違いなさそうです。

 

現在のイギリスでは、階級制度が薄まってきている一方で、インドなどの旧植民地からの移民に加えて、EU域内(特に東欧諸国)からの移民が急増しており、人種的多様性とどう付き合っていくかが大きな課題となっているようです(奇しくも昨日、キャメロン首相が次期総選挙後にEU離脱の是非を問う国民投票を実施すると表明したところです)。

 

本書はあくまで「イギリスの不思議と謎」を紹介するものであり、“ロンドン橋落ちた”などのナーサリー・ライム(マザー・グース)が実は怖い意味を持っているという話や、パブリックスクールが当初は現在とは違う役割を担っていたという話など、読み終わったらすぐに誰かに話したくなる話題が満載です。

しかし、読みようによっては一歩引いて今日のイギリスを考える上で色々な示唆が得られる本です。

 

イギリスの不思議と謎 (集英社新書)

イギリスの不思議と謎 (集英社新書)

21世紀 イギリス文化を知る事典

21世紀 イギリス文化を知る事典