ニッポン異国紀行―在日外国人のカネ・性愛・死/石井光太【著】

本書の著者は、若手ノンフィクション作家である石井光太氏です。

 

最近では、東日本大震災の遺体安置所についてのルポルタージュ『遺体―震災、津波の果てに 』が映画化されたことが話題となっています。

 

本書は、日本に住む外国人の知られざる実態について、著者が実際に取材して書いたルポルタージュです。

 

著者は、まさに副題のとおり「在日外国人のカネ・性愛・死」について様々な切り口で迫っているのですが、個人的に特に興味深かったのは「エンバーミング」に関する部分です。

 

エンバーミング(英 embalming)とは、日本語で「死体防腐処理」を意味します。

具体的には、遺体に薬品等を注入して腐らないようにするとともに、遺体に残った細菌などによる感染症を防ぐ処理のことを言います。

 

とりわけイスラム教やキリスト教などのいわゆる終末思想をもつ宗教文化では、火葬ではなく土葬が基本であることが多く、日本で亡くなったとしても遺体を保存したまま祖国の遺族に引き渡す必要があるのです。

 

一方、火葬文化の国でも、遺骨だけ戻ってきたのではそれが本当に本人かどうか分からないということもあり、やはりエンバーミングが行われているとのことです。

日本も火葬文化の国ですが、海外での邦人死亡事件・事故のニュースなどで見るように、確かに遺体は現地で火葬されずに日本に送られてきているようです(日本で検死するためという理由による場合もあると思われますが)。

 

本書では、エンバーミングの方法や費用、トラブル事例など、非常に細かいところまで取材されており、私にとっては初めて知ることばかりでした。

 

その他にも、露天商を営むイスラエル人の裏事情や東南アジア系風俗業の今昔物語など、人種もテーマも盛りだくさんで読み物として非常に面白いです。

 

ただ、本書を読むに当たって1つだけ気をつけた方が良いと思ったのは、本書では被取材者から得られた情報に対する客観的な裏付けや分析があまり加えられていない点です。

したがって、被取材者が自分に都合の良いように話している可能性が否定できないため、「そんな話もあるんだ」という程度で読んだ方がよい部分が見受けられます。

 

例えば、韓国人向け進学塾経営者による「日本より韓国の方が高等教育の水準が高い」という話や、インド新聞のプロジェクトマネージャーによる「日本のインド料理はインド人が作っていないからインド料理ではない」という話などがそうです。 

前者については、わざわざ韓国人に特化した進学塾を開いている人は当然そう言うだろうし、後者については、日本にはイタリア人が1人も働いていないイタリア料理店が数多くありますが、これを在日イタリア人が「日本のイタリア料理はイタリア人が作っていないからイタリア料理ではない」と言ったところで何も意味を持たないのと同じ話です。

 

著者は、実際にパキスタン人が経営するインド料理店の取材をしてインド人が作っていないことを明らかにしますが、これをもって同プロジェクトマネージャーの話を裏付けたことにはなりません。

 

もちろん、インド人としては本場のインド料理を日本人に知ってほしい、インド人が作るインド料理こそが真のインド料理だと言いたい気持ちは理解できます。

しかし、日本に限らず他国において自分の国の料理を支持してもらうには、本場の味を頑なに守るよりも、現地の人の口に合うように変えていくことが必要となってきますし、それによって料理も進化していくのだと思います。カリフォルニアロールや明太子パスタ、日本風ラーメンなどが分かりやすい例です。

 

著者の「しっかりとした修行をつまずに、本場の味を出すことは不可能だと言っていい。」(p.240)という指摘はまったくそのとおりだと思いますが、修行をつんでいないパキスタン人やネパール人やスリランカ人が作る“インド料理”の方が日本人の口に合って人気があるとすれば、それはそれとして受け入れざるを得ないのではないかと思います。

 

在日外国人について知ることは、翻って日本について知ることにもなります。

その意味で、本書は自分が暮らす日本について改めて考えるきっかけを与えてくれる一冊だと思います。

 

ニッポン異国紀行―在日外国人のカネ・性愛・死 (NHK出版新書 368)

ニッポン異国紀行―在日外国人のカネ・性愛・死 (NHK出版新書 368)