本当の経済の話をしよう/若田部昌澄【著】栗原裕一郎【著】

今回は経済に関する本を紹介します。

 

現在、日本の経済界では、いわゆる“アベノミクス”の効果について様々な方面から賛否両論の議論がなされています。

 

しかしながら、いまいち何が又は誰が正しいのかが分からないので、まずはアベノミクスに肯定的な“リフレ派”経済学者の本を読んでみようと思いました。

 

本書は、リフレ派経済学者として著名な若田部昌澄早稲田大学教授と、評論家の栗原裕一郎氏との講義形式(若田部教授が先生役で栗原氏が生徒役)で進められる経済の入門書という形を採っています。

 

私が本書を手に取った大きな理由の一つが、時宜を得たテーマを題材に選んでいる点です。

本書では「経済学を理解するためのヒント」として、「インセンティブ」、「トレード・オフ」、「トレード」、「マネー」の4つに絞り、その一つずつを章立てた上で、最後の第5章「もう少し論じてみよう」において、それまでの講義を応用した話が展開されています。

 

この4つのヒントについての説明の中で、年金改革やTPP、ユーロ危機、日銀の金融政策など、まさに今話題となっている論点について分かりやすく講義が行われています。

 

しかも、若田部教授の専門が「経済学史」ということもあり、単に現代の新しい話をするだけではなく、古典や歴史的な視点からの解説もあって、非常に盛りだくさんの濃厚な入門書になっています。

とりわけ経済学者ならではの、幅広い文献への言及もなされているので、本書の中で興味を持ったテーマについて本書で紹介されている参考文献をあさってみるのもいいのではないかと思います。

 

ただし、社会科学としての経済学の難点として、それぞれの学者が立つ視点(又は想定する前提条件)によって、結論が変わってくるというところがあります(この点は、本書でも触れられている、経済学という学問が「正の外部性」を持つかどうかというところに若干関係します)。

 

本書も、もちろん若田部教授という一人の経済学者の視点から論じられているため、「経済学」の入門書ではありますが、この考えがすべてではないという点には留意が必要であると思います。

 

この点については若田部教授自身も、自由貿易の利益を比較優位説を使って説明している箇所で、

理論というのはそもそも前提つきの話で、絶対の真理ではない。「理論というのはすべて、できたときから反駁されている。」と言うし、あくまでこれこれの前提のもとではこういう結論になりますよ、という条件つきの話だ。・・・・・・それと条件次第では輸入品には関税をかけた保護貿易のほうがいいという議論だって山ほどある。それで自国産業を保護・育成するというのが典型的な議論だね。(p.124-125)

と述べています。

 

経済では様々なプレーヤーがその時々の条件の下で複雑に絡まりあって動くので、すべて理論で説明できるわけではないというということです。ここが難しいところです。

“アベノミクス”の効果や将来的な見通しに対する評価が、経済学者の間でまるで神学論争のように真っ向から対立しているのも、そもそも依って立つ前提条件が違うので、いくら議論をしてもしょうがないということなのかもしれません。

 

その意味でも、本書は若田部教授の立ち位置を非常に分かりやすく知ることができる良書だと思います。

 

また、このように複雑な経済(学)についてタイムリーなテーマを取り上げて講義形式で学べる本書は、入門書として最適だと思いますし、金融緩和やTPPなどの最近話題になっている論点に関して勉強したい人にとっても有用であると思います。

 

本当の経済の話をしよう (ちくま新書)

本当の経済の話をしよう (ちくま新書)