空飛ぶ納豆菌―黄砂に乗る微生物たち/岩坂泰信【著】

このブログでは、私が読んだ本の紹介もしたいと思います。

 

本書の著者は、岩坂泰信名古屋大学名誉教授です。「エアロゾル」と呼ばれる、大気中に浮遊するさまざまな物質(固体、液体に限らず微生物も含まれるとのこと)について研究されており、本書では「エアロゾル」の中でも特に生物に起因する物質をもつ「バイオエアロゾル」を中心に話が展開されます。

 

本書の流れとしては、エアロゾル(バイオエアロゾルを含む)に関する基本的な解説から始まり、南極の成層圏に発生する氷の粒子(エアロゾル)とオゾン層破壊との関係、最近の黄砂研究の動向と続き、第7章になって初めて本書のタイトルにもなっている“空飛ぶ納豆菌”の話が出てきます。

 

最初から読んでいくと、なかなか“空飛ぶ納豆菌”にたどり着かず、私のようなまったくの素人では少し難しいなと思う部分もありますが、「新書」という媒体であるがゆえに、著者はあえてこの分野に縁がない読者でも理解が進むように丁寧に解説をしているものと推察されます。

 

個人的には、本書を読んで黄砂のイメージが変わりました。黄砂が酸性雨の濃度にも影響を与えていること、海に落下した黄砂がプランクトンのミネラル・栄養塩源となり、海の食物連鎖にも一役買っていること、さらには黄砂が微生物とくっついて飛来してきていること(これが本書のタイトルにつながっていきます)は、まさに目から鱗でした。

 

本書のタイトルが、『バイオエアロゾル学とは何か』とか、副題の『黄砂に乗る微生物たち』だったら、もしかしたら私はこの本を読んでいなかったかもしれません。それほど、この“空飛ぶ納豆菌”は人を惹きつける良いタイトルだなと思います。

 

黄砂に限らず、花粉や細菌、ウイルスなど空気中に浮遊している多くの「エアロゾル」は我々人間の目には見えません。しかし、空気を吸って生きている人間にとっては避けることのできない相手でもあります。そんな人間と切っても切り離せない関係である「エアロゾル」について少しでも知りたいと思われる方には、ぜひとも読んでいただきたい1冊です(全体で約200ページしかなく図表や写真も多いのであっという間に読めてしまいます)。